①アル・スチュワートって誰?
「アル・スチュワートって誰?」と思った人もいるかもしれない。彼は1967年にデビューした英国のシンガーソングライター。彼の紡ぎ出す歌詞は、まるで物語を読んでいるかのように情景豊かで、聴く者の想像力を掻き立てる。そして、その繊細な歌声と味わい深いアレンジは特にアメリカで高い評価を得た。
そんなアル・スチュワートが1976年に生み出した「Year of the Cat」は、叙情的なボーカルと哀しげなメロディが静かに胸を打つ美しい曲。初めて聴いた瞬間から、いまだに私の心のヒットランキングでは根強く上位に食い込み続ける名曲だ。
Youtube【Al Stewart - Year of the Cat (Official Audio)】
②歌詞と和訳
猫の年に見知らぬ街に迷い込んだ男と、そこで出会った美しい女性。幻想的な街を二人で歩き、恋に落ちる。でも、男は知っている。いつかこの場所を離れる日が来ることを。
「Year of the Cat」で歌われているのは具体的な歌詞で、どちらかというと情景はイメージしやすい。なのに、想像すればするほど遠い世界の物語のようにも感じる。
「猫の年」というタイトル、最初は本当に意味が分からなかった。
どうやらベトナムとかタイには、ウサギ年の代わりに猫年があるそうだ。そちらの国の言葉では発音が似ているとか、猫の方が身近な存在だからとか、色々な説があるらしいけど…。
Songwriter(s) - Al Stewart, Peter Wood
On a morning from a Bogart movieIn a country where they turn back timeYou go strolling through the crowd like Peter LorreContemplating a crimeShe comes out of the sun in a silk dress runningLike a watercolor in the rainDon't bother asking for explanationsShe'll just tell you that she cameIn the year of the cat
She doesn't give you time for questionsAs she locks up your arm in hersAnd you follow 'till your sense of which directionCompletely disappearsBy the blue tiled walls near the market stallsThere's a hidden door she leads you toThese days, she says, I feel my lifeJust like a river running throughThe year of the cat
While she looks at you so coolyAnd her eyes shine like the moon in the seaShe comes in incense and patchouliSo you take her, to find what's waiting insideThe year of the cat
Well morning comes and you're still with herAnd the bus and the tourists are goneAnd you've thrown away your choice you've lost your ticketSo you have to stay on
But the drumbeat strains of the night remainIn the rhythm of the new-born dayYou know sometimeyou're bound to leave herBut for now you're going to stayIn the year of the catYear of the cat
③実は、この名曲との出逢いは…
実は、この名曲「Year of the Cat」との出逢いは、アル・スチュワートのオリジナルバージョンではなかった。今から20年ほど前のこと。大学生の頃に購入した、フランスのアーティスト『F.R. デイヴィッド』のアルバムに、偶然カバーとして収録されていたのが、この曲だった。
もちろん当時、私がそのアルバムで一番聴きたかったのは「Year of the Cat」ではなく、F.R. デイヴィッドの代名詞的な曲である「WORDS」。
日本のミュージシャン『スクーデリア・エレクトロ』が儚く幻想的にカバーしたことで知った、「WORDS」の原曲を聞くことが目的だったわけで。
だから正直言って、「WORDS」が聴ければそれで満足。他の曲には特に期待していなかった。だけど、アルバムを再生してほんの数秒で、私はその「Year of the Cat」が持つ独特の世界観に、どっぷりとハマってしまったという…。
先に聞いたのがカバーバージョンで、原曲じゃなくそちらの方を好きになってしまった…なんてことがある人は少なくないと思う。でも、そんな時って「この曲のオリジナルはどんなアレンジなんだろう?どんな雰囲気で歌っているんだろう?」って無性に知りたくなるはず。
当時の私は、まるで宝探しのように情報を探し回った。だけど西暦2000年頃はまだYouTubeも無かったし、言ってみたらヤフーだってまだ一般的には広まってない時代。だからアル・スチュワートの情報を手に入れるのには苦労した。もし今だったら、YouTubeで検索すればライブ映像はもちろん、すぐに色々な情報が手に入っただろうに…。
④それから数年後…
それから数年後、YouTubeが世界的な動画共有プラットフォームになって、手軽に洋楽の動画が見られるようになった頃。ふと思い出して、何気なく「Year of the Cat」と検索してみたら…まさか、こんなにもたくさんのライブ映像があるとは…!アル・スチュワートは、私が想像していたよりも多くの人に愛されているミュージシャンだったことと、原曲の「Year of the Cat」の素晴らしさを知った瞬間だった。
F.R. デイヴィッドのカバーは、原曲の持つ妖しい魅力を残しつつ、現代的な色を添えていた。彼の透明な歌声は、まるで別の物語のよう。あれが好きな人がいるのも、わかる気がする。
でも、私の心を捉えて離さないのは、やっぱりアル・スチュワートのオリジナル。彼の声は、まるで心の奥底に語りかけてくるように優しくて、温かくて、そして切ない。今でも聴くたびに胸の奥が締め付けられる。
⑤「Year of the Cat」の魅力は…
「Year of the Cat」の魅力は、あのイントロのピアノに尽きると思う。一度聴いたら決して忘れられない、魅惑的なリフ。それが曲全体を通して、私を物憂げなストーリーへと引きずり込む。
メランコリックなピアノの音色と、アル・スチュワートの少し憂いを帯びた歌声が完璧に重なり合う瞬間。そこに絡みつくギターやサックスのソロは、もう言葉にならないほど素晴らしい。特にサックスの音色は理屈抜きに感傷的で、何度聴いても涙腺が緩んでしまう…。
あの悲しくも美しい音色は、歌詞に出てくる街の寂しさを映し出しているようでもあり、主人公の心の叫びのようでもある。ふと気づいた時にはもう、曲の世界に深く深く入り込んでしまっている。
アル・スチュワートのボーカルは、力強いというより、そっと耳元で物語を囁いてくれるような優しさがある。好き嫌いはあるかもしれないけれど、このどこか陰のある曲には、その語りかけるような歌い方がたまらなく合う。夢なのか現実なのか、曖昧になるような危うい世界観は、力強い声ではきっと壊れてしまうだろう。