①1997年。音楽史において特筆すべきこの年に…

1977年。音楽史において特筆すべきこの年に象徴の一つとして燦然と輝いたのが、ピアノ・マン、ビリー・ジョエルが発表したアルバム『The Stranger(ストレンジャー)』だ。

1970年代から1990年代にかけて数々のヒット曲を世に送り出し、卓越したピアノ演奏と普遍的なテーマで世界的な評価を確立した彼のキャリアにおいて、1977年発表のこのアルバムはその名声を確固たるものとした重要な作品と言えるだろう。

 

全米アルバムチャートで2位を記録したこのアルバムからは、アルバムのタイトル曲「Stranger」、「Just the Way You Are (素顔のままで)」「She's Always a Woman」「Movin' Out」といった、今日においても色褪せることのない名曲が数多く生まれた。

これらの楽曲はシングルとしても大きな成功を収め、アルバムの世界的ヒットを強力に牽引したのである。

僅か9曲という収録数ながら、その全てが時代を超えて聴き継がれるべき名曲と評される名盤『The Stranger』。その輝かしい楽曲群とは対照的な静寂を湛え、ひっそりと佇むように収録されているのが、アルバム5曲目の「Vienna」(ウィーン)だ。

華やかさや劇的な展開こそないが、聴く者の心に深く染み入る内省的なバラードとして、このアルバムの奥深い魅力を静かに示している。

 

Youtube【Billy Joel - Vienna (Official Video)】

 

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②歌詞と和訳

Slow down you crazy child
You're so ambitious for a juvenile
But then if you're so smart tell me,
Why are you still so afraid? (mmmmm)
ちょっと落ち着けよ、向こう見ずな子よ
若いのに野心的だけど
それほど頭がいいのなら教えてほしい
なぜまだそんなに怯えているんだ?
Where's the fire, what's the hurry about?
You better cool it off before you burn it out
You got so much to do and only
So many hours in a day
一体何が燃えているんだ?そんなに急いでどこへ行く?
燃え尽きてしまう前に冷ますんだ
やるべきことはたくさんあるのに
一日の時間は限られている
But you know that when the truth is told
That you can get what you want
Or you can just get old
You're gonna kick off before you even get halfway through (Oooh)
When will you realize... Vienna waits for you?
分かっているだろう?いつか真実が語られる時が来る
望むものを手に入れるか
それともただ年老いていくだけか
そんな調子じゃ人生の半分も終わらないうちに倒れてしまうだろう
いつになったら気づくんだ?…ウィーンがお前を待っている
Slow down you're doing fine
You can't be everything you want to be before your time
Although it's so romantic on the borderline tonight (tonight)
ペースを落とせ お前はよくやっている
時が来る前に望むものにはなれないよ
今夜、その境界線はとてもロマンティックだけれど
Too bad, but it's the life you lead
You're so ahead of yourself that you forgot what you need
Though you can see when you're wrong
You know you can't always see when you're right (you're right)
残念だが、それはお前が導いた人生だ
自分のことばかり考えて、必要なものを見失っている
間違っている時には気づけるのに
正しいと思い込んでいる時にはそれに気づけないことは分かっているだろう?
You got your passion, you got your pride
But don't you know that only fools are satisfied?
Dream on, but don't imagine they'll all come true (Oooh)
When will you realize... Vienna waits for you?
お前には情熱もプライドもあったけれど
それで満足するのは愚か者だけだって知らないのか?
夢を見続けろ でも全てが叶うとは思わないでほしい
いつになったら気づくんだ?…ウィーンがお前を待っている
Slow down you crazy child
Take the phone off the hook and disappear for a while
It's alright, you can afford to lose a day or two (oooh)
When will you realize... Vienna waits for you?
少し落ち着けよ 無鉄砲な子供よ
受話器を外したまましばらく姿を消してみるんだ
日や2日くらい無駄に過ごしたって大丈夫
いつになったら気づくんだ?…ウィーンがお前を待っている
But you know that when the truth is told
That you can get what you want
Or you can just get old
You're gonna kick off before you even get halfway through (Oooh)
Why don't you realize... Vienna waits for you?
When will you realize... Vienna waits for you?
分かっているはずだ いつか真実が語られる時が来る
望むものを手に入れるか
ただ年老いていくだけか
その調子じゃ人生の半分も終わらないうちに倒れてしまうだろう
なぜわからないんだ?…ウィーンがお前を待っている
いつになったら気づくんだ?…ウィーンがお前を待っている

 

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③全9曲というコンパクトな構成ながら…

全9曲というコンパクトな構成ながら、アルバム『The Stranger』が名曲揃いとして広く認知されているのは、それぞれの楽曲が持つ普遍性と完成度の高さに起因するだろう。

アルバム冒頭を飾る勢いのあるロック・ナンバー「Movin' Out (Anthony's Song)」が都会で生きる若者の焦燥感を鮮やかに描き出す一方、続くタイトル・トラック「Stranger」の印象的なイントロ、そして甘く切ないバラード「素顔のままで (Just the Way You Are)」は、当時から数多くのCMやラジオで耳にする機会が多く、洋楽ファンならずともそのメロディに心惹かれたリスナーは少なくないだろう。

超絶ポップな組曲風の大作「Scenes from an Italian Restaurant (イタリアン・レストランで)」なども、この名盤以外に収録されていればもっと強く日の目を見ていたと思う。

 

 

『The Stranger』は、本国アメリカだけでなく、日本でも大きな支持を得たアルバムだ。

オリコン週間アルバムチャートで3位、そしてシングル「Stranger」が総合シングルチャートで2位を記録したという事実は、当時の日本の音楽シーンにおける洋楽の異例の成功例と言えるだろう。

 

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④「ウィーン」はその楽曲の大部分が…

「ウィーン」は、その楽曲の大部分がピアノの弾き語りのような形式で構成されており、抑制の効いた旋律の中に深い哀愁が漂う。

派手なアレンジや劇的な展開はなく、ピアノとビリー・ジョエルの憂いのある歌声が、楽曲の持つ内省的な世界観を丁寧に描き出している。特筆すべきは間奏に挿入されるアコーディオンの音色だ。

その音色は楽曲に独特の陰影を与え、ノスタルジックで哀愁を帯びた響きは、聴く者を楽曲の世界観へと引き込み、深く突き刺さる。

その状態は、静かな夜に一人で瞑想しているような、そんな感覚に近い。

もし、このアコーディオンの存在がなければ、「ウィーン」が持つ情感の深み、そして私が受ける感動はこれほど強くはなかったかもしれない。

まさに、楽曲の雰囲気を決定づける重要な要素と言っていいと思う。

 

 

歌詞の内容は、父親が息子に対して、人生における重要な示唆を与えるものと解釈できる。

冒頭の歌詞「Slow down you crazy child / You're so ambitious for a juvenile」は、若さゆえの焦燥感や、将来への不安を抱えるすべての人に、ゆっくりと歩むことの重要性を優しく語りかけているようにも聞こえる。

ビリー・ジョエルが、自身の父親との複雑な関係性を背景に書かれたとされるこの歌詞は、まるで子供に対する親の普遍的な願いを代弁しているかのようだ。

ビリー・ジョエルが幼少期に離別した父親と再会した場所が、オーストリアの首都ウィーンであったという背景を知ると、「Vienna waits for you(ウィーンがお前を待っている)」というフレーズは、単なる地名以上の深い意味を持つように感じられる。

それは、人生の岐路に立つ息子に対する、父親からの静かで温かいメッセージであり、人生の目的地、あるいは安息の場所として捉えてもいいのかもしれない…。

 

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