①なんだかすごく疲れたなぁ…
なんだかすごく疲れたなぁ…。
なんて感じに、心がどんよりと重かったり、言葉にできないような無力感に包まれたりしたなら、エニグマの「リターン・トゥ・イノセンス」がおすすめです。
エニグマは、ミヒャエル・クレトゥを中心とするドイツの音楽プロジェクト。「リターン・トゥ・イノセンス」は、1993年にリリースされた彼らのセカンドアルバム『ザ・クロス・オブ・チェンジズ』に収録されています。
どこか浮遊感があって、穏やかで心地良いメロディ。そこに現代的で洗練されたシンセサイザーのサウンドがとろけるように融合して、言葉にしがたい神秘的な雰囲気を作りあげています。毎日の忙しさから自分をふっと引き離してくれて、自分の内側を静かに見つめるような時間へと誘ってくれる。そんな力がこの曲にはあるような気がします。
ミュージックビデオも、なんとも深みのある映像なんです。ある男性が死を迎える瞬間から、その一生をまるで逆再生するように遡っていって、最後は赤ちゃんとして母の腕に抱かれ、生まれるところで終わる…といった内容なんですけど。まさに曲名が意味する「無垢への回帰」そのものを映像で見事に表現しているという感じなんです。それを知ってからこの曲を聴くと、歌詞がさらに胸に迫って、切なくも温かい気持ちに包まれるんですよね…。
Youtube【Enigma - Return To Innocence (Official Video)】
②歌詞と和訳
Love, devotionFeeling, emotion
Don't be afraid to be weakDon't be too proud to be strongJust look into your heart, my friendThat will be the return to yourselfThe return to innocence
If you want, then start to laughIf you must, then start to cryBe yourself, don't hideJust believe in destiny
Don't care what people sayJust follow your own wayDon't give up and use the chanceTo return to innocence
That's not the beginning of the endThat's the return to yourselfThe return to innocence
③寄せては返す波のような…
「リターン・トゥ・イノセンス」が持つ、ゆったりとしたテンポと、寄せては返す波のような繰り返しのリズムパターン。これがまた、知らず知らずのうちに心の緊張を解きほぐしてくれるんですよ。透明感あふれるシンセサイザーの音色や、どこか聖歌隊を思わせるようなコーラスの響きも、心に癒しをそっと運んできてくれるようで…。
歌詞にある、「弱さを恐れないで」「ありのままの自分に還ろう」「無垢な心へ」という言葉が与えてくれるのは、日々のストレスや悩みから心を解放し、本来の自分を取り戻すことへの肯定感。自分を受け入れて内面へと意識を向けることで、明日への小さな希望の灯りが胸の奥で柔らかく灯るように感じられるんです。
「リターン・トゥ・イノセンス」の歌声には、スピリチュアルな響きが宿っているように感じないではいられません。
それは、リードボーカルであるアンドレアス・ハーデ(Angel X)さんの、そっと息を乗せるような優しい歌い方と、ミステリアスさを増幅させる音響効果にあるのかもしれません。深めのリバーブ(残響効果)やディレイ(やまびこ効果)によって、声がまるで広い空間へと溶け込み、遠くからふわりと響いてくるような、独特の霞がかった雰囲気をまとっているかのようです。
この繊細な歌声と、巧みな音響効果が一体となることで生まれる癒やしのオーラこそ、スピリチュアルな力の源泉なんでしょうね。
そして、特にこの曲で強く記憶に残るのが、今まで聴いたことのないようなオリエンタルなあの歌声。これは台湾のアミ族の歌い手、Difang(ディファン)さんとその奥様の歌声をサンプリングしたものなんだそう。その深く魂に響くような歌声が、この曲の持つ独特な世界観をぐっと豊かなものにしている気がしますね。
ただ、このサンプリング、エニグマ側はパブリックドメイン(公共のもの)だと考えて使ってしまったそうで、後になって法的な問題に発展した時期もあったとか。でも、最終的には双方で和解に至ったという…。
④藍色に茜がさしたグラデーションの…
私は「リターン・トゥ・イノセンス」を聴くとなぜか、藍色に茜が射したグラデーションの朝焼けが目に浮かぶんです。
それはやっぱり「リターン・トゥ・イノセンス」つまり「無垢への回帰」という曲名によるものが大きいのかなと。新しい始まりとか、一度リセットしてまた歩き出す…そんなイメージに近い曲名だから、夜が明けて新しい一日が始まる「朝焼け」の、あの希望に満ちた感じと自然に繋がるんでしょうね。過去を乗り越えて、まっさらな心で朝陽に向かっていく…。そんな情景が心に浮かぶのかもしれません。
この曲はヒーリングミュージックとしても高く評価されていて、世界的にヒットした「癒し」をテーマとするコンピレーションアルバム『Feel (フィール)』にも収録されていました。なので、エニグマというユニット名は忘れていても、曲を聴いたら「ああ、あの時の曲か!懐かしい…」とウルウル来ちゃう人は多いかもしれないですね。
ちなみに「エニグマ」という名前ですけど、これは古代ギリシャ語で「謎」とか「捉えどころのないもの」といった意味があるそうなんです。その話を聞くと、なるほどなぁ…と思わずにいられません。なぜって、エニグマの音楽には、エレクトロニックとも、アンビエントとも、ニューエイジとも、一つの言葉ではなかなか言い表せない不思議な魅力がありますからね。なんだかとても神秘的で、聴いているとこの世じゃないどこかの神殿にでも連れて行かれたような感覚になってしまいます。まさに、「エニグマ」という名前がピッタリの音楽だと思いません?