①一般的にベストアルバムには…
一般的に、ベストアルバムには良い曲が集まっているものです。ですがクイーンに関して言えば、「なぜこんなに良い曲がベストに選ばれていないのだろう?」という疑問が湧いてきます。隠れた名曲がオリジナルアルバムにたくさん眠っているのです。
そんな中でも、ギタリストのブライアン・メイが作詞・作曲し、繊細な歌声でメインボーカルを務めた珠玉のバラード「All Dead, All Dead」はまさに隠れた名曲。けれど、これほど素晴らしい楽曲なのに2020年のコンピレーションアルバム「Greatest Hits In Japan」リリースにおける日本公式サイトでの人気投票では40位以内にも入っていないのです。それだけクイーンには名曲が多いということなんでしょうけど…。
Youtube【Queen - All Dead, All Dead - At Last, the Video!】
②歌詞と和訳
Songwriter(s) - Brian May
She came without a farthingA babe without a nameSo much ado 'bout nothingIs what she'd try to say
So much ado my loverSo many games we playedThrough every fleeted summerThrough every precious day
All dead, all deadAll the dreams we hadAnd I wonder why I still live onAll dead, all deadAnd alone I'm sparedMy sweeter half insteadAll deadAnd goneAll dead...
All dead, all deadAt the rainbow's endAnd still I hear her own sweet songAll dead, all deadTake me back againYou know my little friend'sAll deadAnd gone
Her ways are always with meI wander all the whileBut please you must forgive meI am old but still a child
All dead, all deadBut I should not grieveIn time it comes to everyoneAll dead, all deadBut in hope I breatheOf course I don't believeYou're deadAnd goneAll deadAnd gone
③クイーンが音楽史に刻んだ功績は…
クイーンが音楽史に刻んだ功績は、単なるセールス記録やチャートの順位では測り知れないものです。驚くべきことに、ベストアルバム「Greatest Hits」は、本国イギリスにおいて発売以来52週連続、実に約1年間アルバムチャートのトップ100に残り続けたのです。
さらに、デビュー作「戦慄の王女」からわずか10年の間に10枚ものオリジナルアルバムをリリースしていますが、そのほとんどがダブルミリオン、すなわち200万枚を超えるセールスを記録しています。この事実は、クイーンの音楽が世代を超えて人々の心を捉え続けてきた何よりの証拠でしょう。さらに、世紀の金字塔「ボヘミアン・ラプソディ」を擁するアルバム、「オペラ座の夜」に至っては全世界で1000万枚以上という驚異的なセールスを誇っているのです。
④日本でも親しまれている超が付くほどの…
「All Dead, All Dead」が収録されているアルバム、「The News Of The World(世界に捧ぐ)」は1977年にリリースされました。
日本でも親しまれている超が付くほどの有名曲「We Are the Champions」「We Will Rock You」という、アルバムの頂点とも言えるべき2曲が冒頭を飾っていたのは少し意外でしたね…。「We Are the Champions」が持つ壮大なバラードの風格は、アルバムの終幕を飾る楽曲にふさわしいと勝手に想像し、アルバム終盤に収録されていると思い込んでいたのは私だけではないはず。それが2曲目に配置されているのには、今だにどこか不思議な感覚を覚えてしまいます。
そして、その2曲が終わると、4曲目に静かに幕を開けるのがブライアン・メイが切々と歌う悲しみのバラード「All Dead, All Dead」です。冒頭のピアノの旋律を耳にした瞬間、深く沈み込むような陰鬱なメロディが広がります。しかし、その深い闇の中には、一筋の光のような旋律が息づいているのです。
ブライアン・メイが幼少の頃に深く愛した猫の死を悼んで作られたこの楽曲では、クイーンが得意とする複雑なコーラスワークや技巧的な演奏は封印されています。それ故に、曲そのものが持つ本来の美しさがより一層際立って感じられるのです。
サビで深く響くベースの音色も高度なテクニックを用いているわけではないのかもしれません。ですが、なぜか強く印象に残ってしまうのです。「All Dead, All Dead」は、グレイテスト・ヒッツ、ベストアルバムしか聴かないファンには、たぶん知られることはないでしょう。しかし、自分の人生が終わりを迎えるその時には、BGMにこの曲を流してもらいたいというのが、私の密やかな願いでもあります。
⑤何よりも特筆すべきは…
この楽曲では、ブライアン・メイがリードボーカルを務め、そこにフレディ・マーキュリーが温かいハーモニーを添えています。
何よりも特筆すべきは、ブライアンが比類なき輝きを放つギターオーケストレーションです。それは荘厳な教会のオルガンのように深く響き渡り、無数の弦楽器が奏でるかのような重厚さと共鳴を生み出しています。まるで夜空を包む虹色のベールを思わせるその音色は絶えず変化し、息を飲むほど美しく、私の心を惹きつけて話しません。大切な存在を失った悲しみが夜のとばりのごとく降りてきて、世界を滲ませてしまうような、そんな深い情感がこのギターの旋律には込められているのです。
フレディの圧倒的な歌唱力とは異なり、ブライアンの歌声は、はるかに繊細で叙情的です。深い優しさに満ちた、死という普遍的なテーマを扱ったこの歌は、この世に残された人々の心情を切々と歌い上げているかのようです。
「All Dead」という悲痛な叫びの繰り返しからは、ブライアンが愛猫の死という出来事にどれほど深く心を痛めたかが窺えます。孤独な少年時代を過ごした彼にとって、この小さな命は心の拠り所となる特別な存在だったんでしょうね…。