①レゲエ風のリズムに乗せて…
レゲエ風の “ン、チャッ、ン、チャッ” というリズムに乗せて、シンディ・ローパーを彷彿とさせる鼻にかかったハスキーな声で始まる「Chandelier(シャンデリア)」。
どこか憂いを帯びた気だるげな歌い出しには、人生の中でもがきながらも出口を見つけられない女性の、閉塞感と諦めが滲んでいます。
けれどサビに入った瞬間、その空気は一変。まるで心の奥底から絞り出すようなロングトーンが、感情をむき出しにして突き刺さってくる。
これほどまでに情緒の振れ幅が激しい楽曲は、そう多くありません。
Chandelier は、オーストラリア出身のミュージシャン、Sia(シーア)が2014年にリリースした17枚目のシングル。
酒に逃げ、感情を押し殺し、「都合のいい女」に成り下がりながらも、本当は壊れそうな自分を必死につなぎとめている――その切実な姿が、シャンデリアにぶら下がるという比喩に重なります。
夜空に輝くシャンデリアに揺られながら、明日のことなんてどうでもよくなる心地よさ。けれど本当は、下(現実)を見るのが怖くてしがみついているだけ。朝が来るのが怖くて、夜にすがっているだけ。
そんな自分を恥じながらも、どうにか生きたいと願う心の叫びがこの曲には込められています。
Youtube【Sia - Chandelier (Official Video)】
②歌詞と和訳
Songwriter(s) - Sia Furler, Jesse Shatkin
Party girls don't get hurtCan't feel anythin', when will I learn?I push it down, I push it downI'm the one "for a good time call"Phone's blowin' up, ringin' my doorbellI feel the love, I feel the love
One, two, three, one, two, three, drinkOne, two, three, one, two, three, drinkOne, two, three, one, two, three, drinkThrow 'em back 'til I lose count
I'm gonna swing from the chandelierFrom the chandelierI'm gonna live like tomorrow doesn't existLike it doesn't existI'm gonna fly like a bird through the nightFeel my tears as they dryI'm gonna swing from the chandelierFrom the chandelier
But I'm holdin' on for dear lifeWon't look down, won't open my eyesKeep my glass full until mornin' light'Cause I'm just holdin' on for tonightHelp me, I'm holdin' on for dear lifeWon't look down, won't open my eyesKeep my glass full until mornin' light'Cause I'm just holdin' on for tonight, on for tonight
Sun is up, I'm a messGotta get out now, gotta run from thisHere comes the shame, here comes the shame
One, two, three, one, two, three, drinkOne, two, three, one, two, three, drinkOne, two, three, one, two, three, drinkThrow 'em back 'til I lose count
I'm gonna swing from the chandelierFrom the chandelierI'm gonna live like tomorrow doesn't existLike it doesn't existI'm gonna fly like a bird through the nightFeel my tears as they dryI'm gonna swing from the chandelierFrom the chandelier
But I'm holdin' on for dear lifeWon't look down, won't open my eyesKeep my glass full until mornin' light'Cause I'm just holdin' on for tonightHelp me, I'm holdin' on for dear lifeWon't look down, won't open my eyesKeep my glass full until mornin' light'Cause I'm just holdin' on for tonight, on for tonight
③シャンデリアからぶら下がって揺れる…
「シャンデリアからぶら下がって揺れる」という歌詞は、“生き延びるために必死にしがみついている自分” を表現したものとして読むのが最も自然だけど、同時に “首吊り” を暗示するような危うい比喩としても想像されることも。
この二つの解釈は相反するようでいて、実はどちらも「ギリギリの心の状態」という点で交わっています。「死にたい」と叫んでいるわけではない、でも「もう限界かもしれない」と感じている――
生きることと壊れてしまうことの間で揺れる、そんなリアルな声がこの曲には込められているような気がします。
④子供のころの虐待、そして恋人を事故で…
Siaは、子どもの頃に受けた虐待が原因で、うつ病やPTSDを発症します。さらに21歳のとき、最愛の恋人をタクシー事故で亡くすという、深い悲しみを経験しました。
その後も、鎮静剤やアルコールへの依存に苦しみ、2010年には遺書を残して自殺を考えるほど追い詰められます。パニック発作やバセドウ病まで発症し、心も体も限界寸前の状態に。
やがて、多くの観客の前で歌うことさえ苦痛に感じるようになり、引退すら考えるまでに追い込まれていきました。それでも彼女の音楽はヒットを重ね、名声だけが先に大きくなっていきます。
悩み抜いた末、Siaは「顔を見せずに歌う」というスタイルを選択。グラミー賞では背中を向けて歌うという衝撃的なパフォーマンスが話題となり、普段のステージでは、鼻まで隠れる大きなカツラをかぶることで、顔や表情を遮断しています。
⑤そんな彼女が "顔を隠す" という選択を…
そんな彼女が“顔を隠す”という選択をした頃にリリースされたのが、アルバム『1000 Forms of Fear』(2014年)です。
この作品はアメリカのビルボードチャートで初登場1位を記録し、そこに収録された「Chandelier」も世界的なヒットとなりました。
渇望と絶望の狭間でもがいていたSiaが、自らの言葉で綴り、魂を込めて歌ったからこそ――この曲は、単なる技巧では決して到達できない、圧倒的な“リアル”を放っているのだと思います。
正直、これを超える表現って、並大抵のカバーじゃ到底出せない。技術的に上手なカバーはあるかもしれません。でも、「魂の震え」までは、Sia本人にしか宿せない。
曲に込めた想いの強さがあるからこそ、オリジナルには他にない力が宿るのだと思います。
こうした楽曲は他にも存在します。
たとえば、John Lennonの「Mother」。幼少期に両親と離れ離れになり、母を早くに亡くした彼が「Mama don’t go, Daddy come home」と叫ぶように歌うこの曲には、自分でもどうしようもできない喪失の痛みが生々しく刻まれています。
また、Eric Claptonの「Tears in Heaven」は、高層マンションでの転落事故で息子を亡くした直後に書かれた楽曲。「天国で君に会ったら、僕のことがわかるかな?」という歌詞には、言葉にならないほど深い悲しみと祈りが込められています。
どちらも、作者自身の人生から生まれた「音楽という名の心の記録」。だからこそ、他の誰が歌っても “カバー” にしかなりえず、“本人の歌” を超えることはできないのです。