①派手さはないものの…

90年代のUK音楽シーンに大きな影響を与えたバンド、Suede(スウェード)。1996年の3rdアルバム『Coming Up』に収録された「By the Sea」は、派手さはないもののファンの間で特別な存在感を持つバラードです。

夜明け前の海辺を思わせるような穏やかなメロディと、ブレット・アンダーソンの陶酔感ある歌声が心に残るこの曲は「Trash」や「Beautiful Ones」のような華やかなシングル曲とは対照的な曲。ひっそりと佇むように存在していて、価値が見落とされがちな作品かもしれないけど、確かにアルバム全体を柔らかく包み込んでいる隠れた名曲だと思うんですよね。

 

Youtube【By the Sea (Remastered)】

 

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②歌詞と和訳

Songwriter(s) : Brett Anderson

She can walk out anytime
Anytime she wants to walk out
That's fine
She can walk out anytime
Anytime she feels that life has passed her by
彼女はいつでも立ち去れる
いつでも彼女が立ち去りたいときに
それでいいと思うよ
彼女はいつでも立ち去れる
自分の人生が過ぎ去ってしまったと感じた時に
And when I start my new life
I won't touch the ground
I'm gonna try hard this time
Not to touch the ground
そして僕が新しい人生を始めるとき
地に足を付けたりはしない
今度こそ僕は
現実に縛られず進んでみるよ
He can walk out anytime
Anytime he wants to walk out
That's fine
He can walk out anytime
Across the sand into the sea
Into the brine
彼はいつでも立ち去れる
いつでも彼が立ち去りたいときに
それは構わない
彼はいつでも立ち去れる
砂浜を横切って海の中へ
海水の中へ
And when I start my new life
I won't touch the ground,
I'm gonna try hard this time
Not to touch the ground
そして僕が新しい人生を始めるとき
地に足を付けたりはしない
今度こそ僕は
現実に縛られず進んでみるよ
So we sold the car and quit the job
And shook some hands
And wiped the make-up right off
And we said our good-byes to the bank
Left Seven Sisters
For a room in a seaside shack
だから僕たちは車を売って仕事も辞めて
何人かと握手をして
メイクを拭き取った
そして僕たちの銀行にも別れを告げて
7人の乙女が並び立つこの崖を離れ
海辺の小部屋に引っ越した
And when I start my new life
I won't touch the ground,
I'm gonna try hard this time
Not to touch the ground
そして僕が新しい人生を始めるとき
地に足を付けたりはしない
今度こそ僕は
現実に縛られず進んでみるよ
…It's by the sea we'll breed
…Into the sea we'll bleed…
…海辺で僕らは生まれ育つ
…海に向かって僕たちは血を流し続ける…

 

 

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③ブリットポップの火付け役とも…

スウェードがシーンに登場したのは1992年。

デビューシングル「The Drowners(ザ・ドラウナーズ)」は発売前から絶賛され、ブリットポップ・ムーブメントの火付け役とも言われました。(ブラーの『パークライフ』が起点という説も有名ですけど。)

ボーカルのブレットはナルシスティックで中性的なビジュアル、そしてエロティックな歌声で一躍カリスマ的存在に。その姿はグラムロック期のデヴィッド・ボウイともよく比較され、デビュー当初から大きな注目を浴びました。

さらにブレットは“ビッグマウス”としても有名で、グランジを「才能のない奴らの仮面」と切り捨て、マドンナを「過大評価」と批判。「自分たちがグラムロックと呼ばれるのは不愉快だ」とまで発言していました。

ただしその裏でデヴィッド・ボウイへの敬意は強く、少年時代から「ボウイを聴くのが唯一の贅沢」と語るほど。1995年のアメリカツアーでは「The Man Who Sold The World」をリハで歌っており、挑発的な発言とは裏腹に憧れを隠しきれていませんでした。

 

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④順調だったかのように見えたSuedeにも…

デビュー直後から順調だったかのように見えたスウェードにも試練が訪れます。

2ndアルバム制作の最中、ギタリストのバーナード・バトラーが脱退してしまったのです。退廃的で官能的なサウンドの要だったギタリストを失い、バンドは崖っぷちに立たされることに。

ここで救世主となったのが当時17歳のリチャード・オークスと、キーボードのニール・コドリング。スウェードは新たな体制で再出発することを余儀なくされたわけですが、結果的にこのメンバー交代が功を奏し、耽美さを保ちつつもよりポップで華やかな魅力を手に入れることになります。

そして新加入のリチャード・オークスは、加入から2年後の『Coming Up』で早くも才能を開花させることに成功。わずか19歳で全10曲中6曲をブレットと共作し、ギターだけでなく作曲面でも貢献。スウェードならではの退廃性と美しさを保ちながら、新しいポップ感覚を加えることで、アルバム全体を特徴づけました。

こうして危機を乗り越えたスウェードは、第二の黄金期とも呼ばれることになる時代を迎えました。

 

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